東京の住宅街に建つ「アパートメントハウス」。髙橋一平建築事務所が設計を手掛けています。「アパートメントハウス」は、ひとり暮らしの集合住宅の本当の意味を見いだし、個々のライフスタイルにフォーカスし、そしてサポートすることを念頭に設計されました。”都心でのひとり暮らし用集合住宅”に関して論考を展開している髙橋一平氏。その中で、“都心に住む人は仕事場や学校、公園やカフェなど、一日をさまざまな場所で生活し、それぞれがひとときを思い思いに快適にすごすために移動している。従って家に求めることも多様でそれぞれに相応しい家が必要である。”と定義しています。

2階建ての建物内には8つのワンルームが存在します。畳の部屋、キッチンの部屋、ベットルームの部屋、パウダールームの部屋、バスルームの部屋など住む人が求めるもの、住む人のライフスタイルに合わせた目的別のワンルームになっています。それぞれの部屋には大きな窓とロフトを設け、わずか8㎡ほどの空間ながら広がりのあるデザインです。バスルームメインの部屋には、フィリップ・スタルクがデザインを手掛けるDURAVIT/Starck3の洗面ボウルが導入されました。シンプルなフォルムがメインルームとしてのバスルームに自然と溶け込んでいます。

これまでの集合住宅は「ワンルームマンション＝機能がひと通り揃う小さな家」として、都心での日常生活経験とは切り離され、ささやかながらその家で全てが完結するものでした。この「アパートメントハウス」の各部屋は、日常の一部のみを切り出したものであり、各自のワンルーム空間のみでは完結しません。そうすることにより、この「アパートメントハウス」での生活が、流動的な都市経験の一部として溶け込むことができるのです。髙橋一平氏の論考によると、「集合住宅＝そうした各自の日常生活の断片が集合したもの」と説いています。また、そうした断片としての各部屋が「アパートメントハウス」の中で組み合わされることによって、断片の集合であったものが、ひとつの家のようになります。個性的な友人どうしで異なる部屋を住み合うことによって、新しい家の像が生まれます。

公共施設やレストラン、カフェなど様々な時間の過ごし方を楽しめる東京。情報の速さもさながら、変わりゆく街並みを肌で経験し、その暮らしの流れの中に住むという個人の選択。住む人に気付きをあたえ、都心での経験を最大限に生かすことができる次世代の家「アパートメントハウス」は、自らの暮らしを自らデザインすることができる絶好の機会となるでしょう。